
【技能実習】最低賃金法と技能実習法との関係
技能実習中の技能実習生に支払う賃金として、最低賃金法における最低賃金以上を支払う必要がある、という話は、一般的に知られているところでしょう。
技能実習に携わっている方なら、報酬の額が日本人と同等以上であることが技能実習法上求められていることもご存じかと思います。
ただ、「最低賃金以上であればよい」という情報、あるいは、日本人と同等以上という部分が抜け落ちたインターネットの情報も多い印象です。確かに、厚生労働省が公開している技能実習に関する資料でも最低賃金“について”注意喚起するような記載がなされているようで、一般の方は誤解しやすい状況かと思います。
そこで今回は、報酬額についての最低賃金法と技能実習法との理論的関係について整理してみます。
(以下、加々美の私見の部分も含まれています。また、令和3年10月24日記載時点の情報ですので、適宜最新の情報をご確認いただくようにお願い致します。)
最低賃金法が優先されるのか、それとも技能実習法が優先されるのか、それともどちらも適用されるのか。最低賃金法と技能実習法の関係をどのように理解すればよいのでしょうか。
そもそも、技能実習生も労働者として労働関係法令の適用を受けるとされており、最低賃金法も適用されることになります。
最低賃金法が適用される以上、技能実習生の報酬が最低賃金を下回る場合は、罰則付きの違反となります。また、「技能実習法の規定にかかわらず」といった除外規定もありません。
一方で、技能実習法において、技能実習生の受け取る報酬は、日本人と同等以上でなければいけないとされています。これに満たない技能実習計画は認定基準を満たしません。
そして、技能実習法上、最低賃金法違反による罰金刑に処せられた場合に実習認定の欠格事由とされていることからしても、技能実習法は最低賃金法の適用を前提としていると言えるでしょう。「最低賃金法の規定にかかわらず」といった除外規定もありません。
そうすると、技能実習の報酬額について、最低賃金法も技能実習法もいずれが優先ということではなく、両方が重畳的に適用されると考えるのが素直でしょう。
つまり、技能実習生の報酬額は、最低賃金以上であることは当然として、その上で日本人と同等以上の報酬額でなければならない、という結論が導かれます。
以上を前提として、技能実習生に対する報酬額が適法・違法となるパターンは、
1)最低賃金以上、かつ、日本人と同等以上:いずれの法律も適法
2)最低賃金以上、かつ、日本人と同等未満:最低賃金法はクリア、技能実習法は違法
3)最低賃金未満、かつ、日本人と同等以上:技能実習法はクリア(※ただし、最低賃金法違反の影響あり)、最低賃金法は違法
4)最低賃金未満、かつ、日本人と同等未満:いずれの法律も違法
の4つが考えられます。
3のパターンはレアケースかもしれませんが、理論的にはありうるのではないかと思います。
例えば、技能実習生の報酬を最低賃金程度で設定し、かつ、日本人と同等であったものの、最低賃金が引き上げられたことで、支払う報酬額が事後的に最低賃金に満たなくなる場合が考えられます。
(一応、外国人技能実習機構も、(令和2年のものですが)最低賃金の引き上げについて注意喚起をしています。)
https://www.otit.go.jp/files/user/docs/200910-1.pdf
マニアックな話になりますが、最低賃金法違反で考えられる認定取消しの条文の適用の流れは、以下のとおりです。
最低賃金法に違反した上で、罰金刑が確定した場合と、罰金刑にならなかった場合とで分け、さらに後者について、2つのルートが想定されます。
あまり使う知識ではないかもしれませんが、個人的には条文の整理として面白いところです。
(加々美)
