日本版「デジタルノマドビザ」創設に向けた議論
当事務所代表の加々美です。
今回は、以前に書いた記事でデジタルノマドビザをご紹介しましたが、もう少し読みやすい文体で現状も含めて改めて書いてみようと思います。
骨太の方針に盛り込まれた「デジタルノマドビザ」
政府は、2023年6月16日、経済財政運営と改革の基本方針 2023(いわゆる骨太の方針)を閣議決定しました。
この中で、
「国際的なリモートワーカー(いわゆる「デジタルノマド」)の呼び込みに向け、ビザ・在留資格など制度面も含めた課題についての把握・検討を行い、本年度中の制度化を行うこと」(P15)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/2023_basicpolicies_ja.pdf
とし、「デジタルノマド」の呼び込みに向けた在留資格/ビザの制度化を決定しました。
いわゆる「デジタルノマドビザ」について、以前当事務所でも記事を作成いたしました。
デジタルノマドとは、「IT技術を活用し、場所に縛られず(国内外を問わず)、「ノマド(遊牧民)」のように旅をしながら仕事をする人達のこと」です。※1 JTB総合研究所 観光用語集
デジタルノマドは、平均年収$119,423(1,672万円)、中央値$80,000(1,200万円)と比較的所得が高く、また、平均滞在日数として66%は1ヵ所に3〜6か月滞在というデータがあります。※2 JTB総合研究所 世界を旅するデジタルノマドの誘致可能性を考える
こうした高所得、長期滞在のデジタルノマドを呼び込もうと、世界各国でデジタルノマドビザを創設する動きがあり、2023年6月末時点で40カ国以上がデジタルノマドビザを創設(あるいは創設の決定を)しています。直近では、韓国、ウルグアイ、フィリピンが導入を決定しています。
デジタルノマドビザを導入した、特にインパクトの強いエリアとして、ポルトガルのマデイラ諸島のポンタ・ド・ソルがあります。
マデイラ島の人口8,000人の村ポンタ・ド・ソルでは、最初の1年で6,000人以上のデジタルノマドを誘致し、推定3,000万ユーロの経済効果をもたらしたという。
デジタルノマドビザ、地方再生のツールとしても期待 JETRO
以下のPR動画はデジタルノマドにとっての聖地を思わせる演出で見る者を魅了し、また、デジタルノマドについてイメージを持つ上で最適です。
こうした動きの中、日本でもデジタルノマドビザを創設するべく、ついに骨太の方針に盛り込まれました。
現状のビザ(在留資格)ではダメなのか?
なぜわざわざ新しいビザ(在留資格)を創設する必要があるのでしょうか?今ある在留資格ではだめなのでしょうか?
そもそも、デジタルノマドの多くは海外旅行をしながらリモートワークを行う人たちで、フリーランスや他国の企業に雇用されていることがほとんどです。
そして、現行の就労系のビザ(在留資格)は、日本国内の企業との雇用などが前提とされているものが多く、例えばIT系の業務を行う場合に一般的な「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う」という要件があるため、海外のデジタルノマドワーク(リモートワーク)をするために日本のビザをとるということは難しく、デジタルノマドに馴染まないのです。
また、観光ビザとしての「短期滞在」については、通常最大90日の在留期間となるため、それを超えての滞在は原則できません。3か月以上の中長期滞在をするデジタルノマドを呼び込むためには、デジタルノマド専用の在留資格を用意するしかないのです。
(なお、富裕層向けの長期滞在観光としての「特定活動」というものもありますが、資産の要件が厳しく、これもデジタルノマドには馴染まないものです ※当事務所ブログ記事 富裕層向け長期観光・保養ビザ(在留資格))
どのような制度になるのか
それでは、実際にどのようなビザ(在留資格)になるのでしょうか?
これについては現在、各省庁で検討が進められています。
制度上、大きな課題として考えられるのは、
1.在留資格そのものをどうするのか
2.社会保険・年金はどうするのか
3.租税の扱いはどうするのか
の3つが挙げられます。
その他、実際にデジタルノマドビザができたとしても利用されなければ意味が無いため、ビザの手続が簡易であることや、滞在先・インターネット環境といった受け入れ体制をどのようにするのかといった実務的な視点も必要になります。また、制度の濫用・悪用が起こらないような制度設計も重要です。
日本版デジタルノマドビザ創設に向けての提言活動
当事務所の代表行政書士である私・加々美は、メタバースでの活動をきっかけに「RULEMAKERS DAO」というルールメイキングを行う団体にお声がけいただき、デジタルノマドビザ創設のプロジェクトに参画させていただく機会をいただきました。
このプロジェクトでは、デジタルノマドビザを創設することを目標に、若くて優秀な起業家・弁護士等の専門家らが集まり、各国のデジタルノマドビザの制度を洗い出し、制度案を練り上げ、国会議員・自治体首長の方々や各省庁の方々への提案・意見交換を行いました。
デジタルノマド呼び込みに向け制度整備を 自民党ワーケ議連第4回総会(旬刊旅行新聞)
活動の詳細はDAOのウェブサイトやDAOのTwitterアカウントをご覧ください。
デジタルノマドに関するビザ・在留手続きは、当事務所にご相談ください
当事務所では、国内外のデジタルノマドビザについて最新の情報を集めています。
また、当事務所は、国境を越えた”越境ワーク”のプロフェッショナルである国際弁護士などの専門家ネットワークも有していることから、適宜、専門家のご紹介が可能です。(弁護士法等の規制により紹介料はいただきません。)
デジタルノマド、特に日本国内でのリモートワークに伴うビザ・在留手続きは、当事務所にご相談ください。
デジタルノマドワーカーの方だけでなく、リモートワークを推奨している企業からのご相談も大歓迎です。