改正入管法に絡む改正後の刑法・刑事訴訟法
【はじめに】
令和5年の入管法改正に伴い、関連する刑法・刑事訴訟法の条文も改正されます。
刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和5年5月17日法律第28号)
今般の刑法・刑事訴訟法の改正は、外国人の出入国及び在留に深く関わることから、行政書士としても無視できないものとなっております。
なお、以下の記載は弊所の情報整理として作成したもののため、実務の対応にあたっては必ず法律専門家(刑事手続に関わる部分については特に弁護士)にご相談ください。本記載によって生じた損害については弊所は責任を負いません。
【刑法】
令和5年6月6日施行
- 収容令書・退去強制令書により身柄を拘束されている者が逃走した場合
旧:入管法72条1号(1年以下の懲役若しくは20万円以下の罰金・併科)→削除
新:刑法97条の逃走罪(3年以下の懲役)、98条の加重逃走罪(3年以上5年以下の懲役)の主体(「法令により拘禁された者」にあたる)
- 仮放免(入管法54条2項)された者は逃走罪の対象ではない。(「法令により拘禁された者」にあたらない)
【刑事訴訟法】
令和7年5月16日までに施行(以下、改正後の条文)
前提:「退去強制対象者に該当する外国人について刑事訴訟に関する法令、刑の執行に関する法令又は少年院の在院者の処遇に関する法令の規定による手続が行われる場合には、その者を収容しないとき、又は第四十四条の二第一項の監理措置に付さないときでも、その者について第五章(第二節並びに第五十二条及び第五十三条を除く。)の規定に準じ退去強制の手続を行うことができる。」
(入管法第63条)
→ 刑事裁判等の刑事手続が行われている間も、入管法に基づく退去強制手続を進行することが可能。
1.拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者に係る出国制限制度
【出国制限制度】(刑訴法342条の2)
対象:拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者
要件:拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告
効果:出国が禁止される
【一時出国許可】(刑訴342条の2)
対象:拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者(全部執行猶予除く(刑訴法96条4項括弧書き))
請求権者:判決宣告を受けた者、弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹(刑訴法342条の3)
主体:裁判所
要件:
- 本邦から出国することを許すべき特別の事情
- 検察官の意見聴取(刑訴法342条の4第3項)
- 一時出国許可の申請、(刑訴法342条の4第1項本文)
- 帰国等保証金額が定められたときはその納付(効力発生要件)(刑訴法342条の6第1項)
特別の事情の考慮事情:指定期間内に本邦に帰国・上陸しないおそれの程度、その者が受ける不利益の程度、その他の事情(刑訴法342条の4第2項)
効果:一時出国の許可ができる(指定期間あり。決定)
例外:収容令書、退令発付を受けた場合は対象外(同但し書き)
裁判所権限:
- 必要があれば指定期間の延長(刑訴法342条の4第4項)
- 必要性の喪失による指定期間の短縮(刑訴法342条の4第5項)
【一時出国許可の必要的取消し】(刑訴法342条の7第1項)
主体:裁判所
要件:収令発付 or 退令発付 or 監理措置決定
効果:一時出国許可の必要的取消し(決定)
【一時出国許可の任意的取消し】(刑訴法342条の7第2項)
主体:裁判所
請求等:検察官の請求 or 裁判所の職権
要件:
①正当な理由なく指定期間内に本邦に帰国せず又は上陸しないと疑うに足りる相当な理由 or ②渡航先の制限・条件違反。
効果:
- 一時出国許可の任意的取消し(決定)
- 帰国等保証金の没取可(刑訴法342条の7第3項)。帰国・上陸しない場合も没取可(刑訴法342条の7第4項)
【一時出国許可時の帰国等保証金】(刑訴法342条の5第1項本文)
主体:裁判所
要件:一時出国許可をする(ただし保釈決定された被告人に許可する場合はこの限りでない(同但し書き))
帰国等保証金額の考慮事情:宣告された判決に係る刑名及び刑期、当該判決の宣告を受けた者の性格、生活の本拠、資産。外国人の場合にはその在留資格の内容その他の事情
効果:指定期間内に本邦に帰国または上陸を保証するに足りる相当な金額を定める(刑訴法342条の5第2項)
【出国制限違反等の措置】(刑訴法348条の8)
権限:検察官の請求又は裁判所の職権。
要件:
- 一時出国許可を受けずに出国しようとしたとき
- 一時出国許可の任意的取消しされたとき
- 一時出国許可された者が正当な理由なく帰国・上陸しなかったとき
効果(①〜③それぞれの場合にそれぞれの効果):
①勾留状発付なし:勾留決定(刑訴法342条の8第1項1号)
②保釈されている:保釈取消決定(刑訴法342条の8第1項2号)。裁判所の決定により保証金の没取可(同2項)※保釈保証金と思われる(私見)
③勾留の執行停止されている:勾留執行停止の取消決定(刑訴法342条の8第1項3号)
2.罰金の裁判の告知を受けた被告人及び罰金の裁判が確定した者に係る出国制限制度
【出国禁止命令】(刑訴法345条の2第1項)(保釈決定、勾留の執行停止時(刑訴法342条の2第2項)も同様)
対象:罰金の裁判(かつ執行猶予なし)の告知を受けた被告人
主体:裁判所
要件:罰金を完納できないおそれ(勾留状発付する場合を除く)
効果:一時出国許可がなければ出国してはならないことを命じる(決定)
【一時出国許可】(刑訴法345条の3・342条の3〜342条の8)
出国禁止命令における一時出国許可については、拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者の規定を準用
- 帰国等保証金
- 一時出国許可の取消し
- 出国制限違反等の措置
【刑事施設への拘置】(刑訴法484条の5)
対象:罰金の裁判が確定した者
主体:出国禁止命令の決定した裁判所
請求権者:検察官の請求
要件:
- 罰金を完納することができないこととなるおそれ
- 一時出国許可を受けない本邦から出国したもの等、次のいずれかに該当
一 第三百四十五条の二又は第四百九十四条の三の規定による決定を受けた者であつて、裁判所の許可を受けないで本邦から出国し又は出国しようとしたもの
二 第三百四十五条の二又は第四百九十四条の三の許可を取り消された者
三 正当な理由がなく、指定期間内に本邦に帰国せず又は上陸しなかつた者
四 前三号に掲げる者のほか、第三百四十五条の二又は第四百九十四条の三の規定による決定を受けた者であつて、逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるもの
効果:裁判確定した後30日を経過するまで刑事施設に拘置可
【出国確認の留保】(入管法25条の2第1項1号、60条の2第1項1号)
主体:拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告による出国制限(刑訴法342条の2)又は罰金の裁判の告知を受けた被告人及び罰金の裁判が確定した者に係る出国禁止命令(刑訴法345条の2)による出国制限を受けている外国人又は日本人(かつ一時出国許可を得ていない者)
権限者:入国審査官
要件:
- 拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告による出国制限(刑訴法342条の2)又は罰金の裁判の告知を受けた被告人及び罰金の裁判が確定した者に係る出国禁止命令(刑訴法345条の2)による出国制限を受けている外国人又は日本人
- 一時出国許可を得ていない
効果:出国の確認を留保可
【退去強制令書の執行停止】(入管法63条3項)
主体:拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告による出国制限(刑訴法342条の2)又は罰金の裁判の告知を受けた被告人及び罰金の裁判が確定した者に係る出国禁止命令(刑訴法345条の2)による出国制限を受けている外国人
要件:拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告による出国制限(刑訴法342条の2)又は罰金の裁判の告知を受けた被告人及び罰金の裁判が確定した者に係る出国禁止命令(刑訴法345条の2)による出国制限を受けている
効果:出国制限を受けている間、退令書は執行を停止
【出国制限対象者条件指定書】(入管法63条の2第1項)
1)携帯義務(入管法23条1項13号)
主体:主任審査官
対象:退令書の執行停止(入管法63条3項)かつ刑訴法による身体拘束されていない者(出国制限対象者)
効果:
- 住居及び行動範囲の制限、呼出しに対する出頭義務その他必要と認める条件を付す(条件違反して逃亡、正当な理由なく呼出しに応じない:1年以下の拘禁刑若しくは20万円以下の罰金又は併科(入管法72条12号))
- 出国制限対象者条件指定書を交付(入管法63条の2第1項)
- 出国制限対象者条件指定書を常に携帯(入管法23条1項13号)
違反要件:携帯しない
違反効果:1年以下の拘禁刑若しくは20万円以下の罰金又は併科(入管法72条12号)
2)提示義務(入管法23条3項)
対象:出国制限対象者条件指定書を交付された者
主体:入国審査官、入国警備官、警察官、海上保安官その他法務省令で定める国又は地方公共団体の職員
違反要件:提示を拒んだ
違反効果:10万円以下の罰金(入管法76条2号)
【条件遵守状況等の届出】(入管法63条の2第1項)
届出者:出国制限対象者
届出先:主任審査官
届出方法:義務的。法務省令で定める
届出事項:生活状況・条件遵守状況その他法務省令で定める事項
届出違反要件:届出しない or 虚偽の届出
届出違反効果:20万円以下の罰金(入管法71条の5第5号)
【出国制限対象者の不法残留罪・不法在留罪の適用】(入管法63条の2第3項)
対象:出国制限対象者(入管法63条の2第1項)
要件:出国制限(刑訴法342条の2)or 出国禁止命令(刑訴法345条の2)による出国の制限を受けている間
効果:不法残留罪・不法在留罪(入管法70条1項、2項)が成立しない。
【出国制限対象者の不法就労】(入管法70条1項12号)
要件:収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を行った
効果:3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金又は併科(入管法70条1項12号)
記事作成者:加々美