許認可の手続、特に需要が多いものに関しては、行政側が親切に「手引」(マニュアル)を発行してくれていて、そこに掲載された、申請に必要な書類、書き方の見本、手続の流れなどを参考にすれば、許認可を取ることが容易になります。
私も許認可申請の際には、手引を参考にします。
ここまで読むと、一般の方は「プロのくせにマニュアルに頼るのか?」という印象を持つかもしれません。
しかし、手引だけでは足りません。
手引に載っていない必要書類、メインの許認可に関連する周辺手続・書類作成、事前調査など、手引に頼るだけでは許認可を取ることが難しいことも多いです。
ですので、業務の効率を上げる上では手引は参考にしますが、それはあくまで行政書士にとって数ある道具のうちのひとつにすぎないのです。
ここまで読むと、一般の方は、「まぁ、そんなもんなんだろうな」という印象を持つかもしれません。
多くの行政書士は、当然していることだと思います。
しかし、私自身が行なっている、大切なプロセスがもうひとつあります。
根拠法令の調査です。
法令について語ると、「行政書士は書類を作るのが仕事」という声が、時折届きます。
つまり、「理論的なことはともかく、許可が取れればそれでいいし、争ってもしょうがないんだから根拠法令なんて調べてもしょうがない。行政側が言うことに従っていればいい」ということだと、僕は受け止めています。
確かに、依頼者の方は、許認可の取得を目的としているのであって、行政と争うことではありません。その先には、例えば株式会社であれば利益を出すことが目標なので、許認可はビジネスのスタートラインに立つための通過点に過ぎません。
特定行政書士制度が始まり、行政書士にも不服申立ての代理権が付与されたことを考慮しても、争うことのコストが高すぎるため、よほどのことがない限り、再申請した方が本来的な目的を達成する上では良いと僕も思います。
しかし、行政側は常に正しい判断をするとは限りません。
そもそも、許認可は行政庁が行うため、「法律による行政の原理」(つまり、行政は法令に基づくことが要請されている)が妥当し、許認可も当然、法令に要件・効果が規定されることになります。
こうした法令に規定されていない行為を求められることが時折あります。
法律に「A」「B」「C」の要件が規定されていて、それらを備えたら「許可しなければならない」とあれば、例外がない限り、許可しないことは違法な行為です。
また、法令を確認しない状態で手続を進めたところで、「これでは許可できない」となってしまえば依頼者の方のビジネスがスタートできないという事態になってしまいますし、「以前の担当者ではこれで通った」という主張よりも、「法令上こうなっている」という主張の方が説得力があります。実務の経験則だけではなく、根拠法令をそこに加える事で、許認可の可能性を高め、トラブルを回避することにも繋がります。
根拠法令を確認する理由・効果は、これだけではありません。
行政側の申請窓口の担当者の方は、ずっと同じ業務を担当するわけではなく、配置換えされる場合があり、その許認可に関して全く知識がない方が担当者になることもあります。
そういった方が担当者になり、こちらが「これはこの書き方で大丈夫ですか?」「ここは本当に営業しても問題ないですか?」と聴く度に、「確認して連絡します」とやりとりしていては、時間ばかりが過ぎてしまいます。
そうしたやりとりを極力少なくし、むしろこちらが「ここは法令上こうなっている」「この書類で問題ないはずです」と指摘することができれば、行政側にとってもメリットになります。
したがって、我々行政書士が根拠法令に依拠した申請手続きを進めることは、依頼者の利益のみならず、行政側の利益にも資するのです。
僕はこの根拠法令に依拠した申請プロセスのことを「申請手続きの最適化」と呼んでいます。
行政書士法1条には、こうあります。
「行政に関する手続の円滑な実施に寄与し、あわせて、国民の利便に資することを目的とする。」
調査の手間が増える分、業務全体にかかる時間はどうしても増えてしまいます。
自治体の条例に基づく申請の場合、法律→施行規則等→条例→施行規則等といったように、調べる法令も必然的にボリュームが出てきます。
しかし、それが依頼者の方、行政双方の全体利益が高くなるものであれば、そこにつぎ込むコストは有益な「投資」になるのだと、僕は思います。
実は、ここまで書いてきた内容は、私がゼロから思いついたわけではありません。(そこまで優秀な人間ではないです)
とあるエリート元行政マンの方から教えていただいた内容を自分なりに消化し、実践していることです。
もし、その方との出会いがなければ、未だに霧の森林の中を彷徨うように、業務スタンスを確立できずにモヤモヤとしたまま今日に至ったことでしょう。
この場をお借りして、感謝申し上げます。
ここまで読んでいただいて、一般の方が、「行政書士に頼んでみよう」「加々美とか言う行政書士に頼んでみよう」と思い至っていただけたとしたら、とてもうれしく思います。